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前橋地方裁判所 昭和37年(ヨ)92号 決定 1964年2月13日

申請人 綾部順一 外一名

被申請人 古河鉱業株式会社

主文

被申請人は申請人宮内威を被申請人の従業員として扱わねばならない。

被申請人は申請人宮内威に対し昭和三七年七月二一日以降本案判決確定に至るまで一カ月金一二、九四六円の割合による金員を毎月一五日限り仮に支払え。

申請人宮内威のその余の申請および申請人綾部順一の申請を各却下する。

申請費用は二分して、その一を申請人綾部順一の、その余を被申請人の各負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、当事者の求める裁判

申請人ら代理人は、(イ)被申請人が昭和三七年七月二〇日申請人両名に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する、(ロ)被申請人は申請人両名を被申請人の従業員として扱わねばならぬ、(ハ)被申請人は昭和三七年七月二一日以降申請人綾部順一に対して一カ月金二六、一四四円、申請人宮内威に対して一カ月金一三、七四一円の割合による金員を毎月一五日限り仮に支払えとの裁判を求め、

被申請人代理人は、申請人両名の各申請はこれを却下するとの裁判を求めた。

第二、当事者の主張

一、申請人らの主張

1  被申請人古河鉱業株式会社(以下、会社という)は、肩書地に本社を有し、鉱山・土木機械製造販売の業を営むものであつて、高崎市江木町三一二番地に足尾製作所高崎工場(以下、高崎工場という)を有している。申請人綾部順一は昭和二七年三月三日に、同宮内威は昭和二九年四月一日に、それぞれ高崎工場において採用され、爾来、綾部は記録工、宮内は機械工として勤務し、両名は全国金属労働組合群馬地方本部古河鉱業株式会社足尾製作所高崎工場支部(以下、組合という)の組合員である。

2  申請人両名は、昭和三七年七月二〇日にいずれも懲戒解雇に付された。懲戒解雇の理由は、綾部については、(イ)会社の機密事項を故意に洩らしたこと、(ロ)診断書を悪用し、虚偽の理由によつて欠勤したこと、(ハ)業務阻害、業務妨害を唆かしたこと、(ニ)勤務成績態度が不良であることであり、宮内については、(イ)会社の機密を故意に洩らしたこと、(ロ)入社以来の非能率者であり、作業態度不良であること、(ハ)遅刻、早退、欠勤が他の人に比べて異常に多いこととなつている。しかし、両名には、会社主張のような右各事由に該る事実は存在せず、従つて右各理由を以てする両名に対する本件各解雇は、いずれも全く解雇権の濫用であつて、無効である。

3  さらに、右各解雇は、申請人両名が入社以来熱心な組合活動家であるのを嫌い、これを排除する意図のもとになした不当労働行為であつて、労働組合法第七条第一号および第三号に該当し、無効である。

(一) (申請人両名の組合活動歴)綾部は、昭和二八年四月から組合の青年婦人部委員、同三二年四月同部長、組合代議員兼任、その間に教育宣伝部に所属して組合機関誌「ちから」の発行に携り、うたごえ文芸サークル「竹の子」の活動の中心となり、同三四年九月会社の新管理方式に対する組合の合理化反対闘争の先頭にたつて活躍し、同三五年九月から翌三六年九月まで組合執行委員となつて教育宣伝部を担当し、活溌な組合活動を続けていたもので、会社以外においても昭和三〇年六月から同三六年一〇月までの間に高崎地区青年婦人部協議会議長代理、高崎地区労中小企業対策部長、同地区労組織部長を勤めていたものであり、宮内は、昭和三二年四月組合の青年婦人部委員、同三三年四月同部運営委員、調整部長となり、当時の賃金闘争、一時金闘争を指導し、同三四年九月から同三六年八月まで青年婦人部書記長となり、その間、全金群馬地方本部の常任幹事をつとめているものである。

(二) (新管理方式反対闘争の経緯)会社は、もと綜合経営方式の名の下に営業内容の比重は石炭の生産が最大で、これに次ぐのが銅の生産であつたところ、石油資本におされての石炭産業の不振、貿易の自由化による銅の売行低下などにより、経営の比重を勢い機械や化学部門に移さざるをえなくなり、漸次、機械産業部門に手を入れはじめ、昭和三五年三月、新管理方式という名の下に合理化政策をとりはじめ、組合に対してその民主的権利や福利厚生上の諸権利を奪うようになつた。そこで、組合は、その合理化政策に反対して闘争するに至り、申請人両名は、組合役員として右闘争を指導した。

(三) (同心会結成の経緯)会社は、そこで、右合理化を実現するため、組合対策に力を入れ、高崎工場の総務課長以下労務関係者を配転してその後任に九州大峰炭坑の組合を破壊した者を雇い入れ、反組合的な設楽一派、楠本総務課長の一派、会社の意を承けて組合員となつている松島らが会社の意図する線にそつて巧妙に動きはじめ、昭和三六年一月から総務課長宅に飲みに行こうという運動がはじめられ、その頃、労務政策として、P・R版「機械ニュース」が発行され、信賞必罰が唱えられ、提案制度による表彰が盛んに行われ、同年九月の組合役員の定期改選で前記御用分子が勝利をおさめ、翌三七年二月一五日に右分子は、共産主義に反対することを表明して、「同心会」という名称で組織を結成した。

(四) (申請人両名に対する解雇の経緯)同心会は、組合員星野泉の解雇問題について日本共産党西毛地区委員会が流布した同年六月四日付のビラが綾部の仕業だとして組合に問題提起したが、組合からそれが容れられないとみるや、会社の機密書類を綾部が盗んだ旨の噂を流布して攻撃を加えてきたもので、ユニオンショップ協定をたてにとつて、綾部を組合から除名して、解雇しようとしたが、これらは、同年七月一一日の組合大会で認められなかつた。そこで、会社は、同月一六日に組合の三役を呼び、会社の立場から右機密文書流布の事実について調査する旨申入れ、梅原会計係長らをして調査させ、その結果それが事実無根であることが明らかになつたのに拘らず、翌二〇日申請人両名を解雇したものであつて、従つて申請人両名に対する解雇は、いずれも会社と同心会とによつて仕組まれたもので、組合活動家であり、共産主義的思想の持主である両名を放逐するために採つた手段であることは明白である。

4  本件各解雇は、工員就業規則第七一条第四号に定める手続を履践しないものであるから、無効である。即ち、右規定によれば、会社は、工員を懲戒解雇する際には、事前に行政官庁の認定をうけなければならない。しかるに、本件においては、会社が労働基準監督署の除外認定をうけたのは、解雇後である昭和三七年八月一日と認められる。従つて、本件懲戒解雇は、いずれも無効である。

5  申請人両名の平均賃金は、綾部が金二六、一四四円、宮内は、金一三、七四一円であるが、平均賃金の算出につき、特に宮内については、昭和三七年三月、四月、五月が病気のため平常の稼働日数と認められないので、六月、五月、二月の三カ月を基礎とした。

6  申請人両名は、昭和三七年七月二〇日までの賃金支給を受けているのみで、その後は労働者としての唯一の収入源たる賃金収入の途が閉ざされてその生活が危殆に瀕しており、雇傭関係存続確認の訴を提起すべく準備中であるが、本案判決の確定をまつていては回復し難い損害を蒙る虞れが十分である。

二、被申請人の主張

1  被申請人は、肩書地に本社を、高崎に工場を有し、鉱山、土木機械製造販売の業を営むものであり、申請人綾部は記録工として、同宮内は機械工として、もと工場において採用されて勤務し、組合に加入していた。しかし、会社は、昭和三七年七月二〇日両名を懲戒解雇した。

2  会社が両名を懲戒解雇したのは、次の理由による。

(一) (両名に対する共通の解雇事由)両名は、故意に会社の重要な機密を漏洩し、業務上支障を生ぜしめた重大な義務違反をなしたが、これは、労働協約第五七条第三号第一〇号工員就業規則第七三条第六号、第一〇号に該当する。

(1) 綾部は、昭和三五年八月下旬ごろ、会社の重要機密文書である「高崎工場三カ年計画基本案」(以下、三カ年計画という)を入手し、自己の所属するグループ関係者に配布して同グループの今後の態度決定の資料とする考えで、宮内と相謀つて、これを謄写版刷りにして少くとも三〇部以上を複製し、同年九月中旬に自宅で行われた自己を責任者とする同グループの会合の席上で、出席者斎藤有功ら六名に対して、「この文書は、会社の極秘文書であり、会社の今後における合理化政策の基本となるものであり、我々の討議の資料となるものであるから大切に保管してもらいたい。」旨述べて右謄写版刷りの三カ年計画を配布した。その後、右謄写版刷りの三カ年計画は、右会合などに出席していない者にも配布されており、右文書の配布の範囲は、会社の内外にわたり、相当数であることが推認される。

(2) 三カ年計画は、工場長岡野穰が昭和三五年七月立案し、同年八月本社の承認をうけているものであつて、昭和三五年下期から同三八年上期に至るまでの工場の予定生産機種とそれに伴う生産原価、販売価格、起業費、収支計画をはじめ、その実施にあたり必要とされる各部門別の具体的な措置が数字を挙げて記述されており、その業務上の機密性は甚だ高いものである。岡野工場長は、そのため、右文書の複写に際しては、特に技術課長に直接それを命じ、かつその部数も五部に限定している。

(3) 高崎工場では、その後、三カ年計画に従つて逐次諸施策を実施していつたが、とかく計画の一部が洩れ、申請人らを中心とする一部の動きが陰に陽に行われ、そのため、諸施策の実施はとかく阻害されがちとなり、実施を遅らせたり、さらにはその中途で計画を変更せざるを得なかつたことが屡々あつた。

(二) (綾部に対する解雇事由)

(1) 綾部は、診断書を悪用して、虚偽の理由で欠勤したことがある。即ち、綾部は、昭和三六年七月二五日から同日付のはるな生活協同組合高崎診療所医師清水明作成名義の診断書を提出して、大腸カタルにより翌月一日まで欠勤したのであるが、会社が偶々調査したところ、右診療所に受診入院したことはなく、かえつて右期間に東京で開催されていた日本共産党全国活動者会議に出席していたことが明らかとなつたのである。これは、労働協約第五八条第四号、工員就業規則第七二条第二号、第三号および第九号に該当する。

(2) 綾部は、次のとおり、会社業務を阻害し、また他に対しその妨害を使嗾した。これは、労働協約第五七条第七号、第八号、第一〇号および第一六号、第五八条二号、工員就業規則第七三条第三号、第四号及び第一〇号に該当する。

(イ) 綾部は、昭和三五年五月ごろから同年一〇月初旬にかけて、業務課工員全員に対し、同課副課長内海孝夫の排斥を煽動し、内海副課長にお茶を出さぬこと、机をふかぬこと、電話を取次がぬことなどを実行させ、さらに、内海副課長の出席する試作会議など業務上の諸会議に出席しないことを約させ、出席した工員を後にいわゆる吊し上げて、謝罪を要求した。

(ロ) 同年九月ごろ、新管理方式反対闘争が妥結後、その闘争によつて生じた相当の滞貨を処理するため、工場では、所要の出庫、出荷を綾部に指示したが、同人は、その命に服さないばかりか、さらに自己の同僚に対しても命に服さぬよう煽動し、そのため、滞貨処理は、著しく遅延した。

(ハ) 翌三六年三月頃、会社では、さく岩機販売会社の設立を決定し、それに伴い、高崎工場の販売要員として仙台営業所に出向中の岡田清外二名を右販売会社に転出せしめることを内定していたところ、綾部は、これを知つて、右岡田らに転出を拒否するよう煽動し、さらに同年七月頃には、業務課勤務の関口初美が右販売会社への転出を同意したことを責め、職場討議と称して業務課全員を同課発送場に集め、右関口を全員の前で罵倒した。そのため、右岡田らは一時輸出を拒否し、右関口は疲労のため数日休務するに至つた。

(ニ) 綾部は、翌三七年七月初旬、「さく岩機販売会社大阪営業所より住友化学に対する未納品リストの送付方並に遅延理由の明細書を送付せられたき旨の依頼電報があつた。」と虚偽の報告をした。そのため、高崎工場では、営業担当者全員に他の作業を中止させて右リストの作成にあたらせ、正常な業務運営が阻害された。

(3) 綾部は、無断離席が多く、勤務成績、態度とも極めて不良である。即ち、同人は、午前八時二五分の始業時間後なおも三〇分位は着席せず、就業時間中屡々勤務外の読書や文書の作成に当つており、就中、業務に無関係な無断離席が特に多く、その永いときには三時間にわたり、そのため外部から綾部宛の業務上の電話があつた場合に在席しないので、業務上の支障が生じたことが再三あつた。これは、「労働協約第五八条第七号、第五九条第一号、工員就業規則第七三条第四号、第七二条第三号および第九号に該当する。

(4) 以上の(1)ないし(3)の各事由は、労働協約第六〇条に規定する懲戒行為が併合又は回を重ねた場合に相当するので、同条により当然処分が加重されることとなる。しかして、綾部は、前記違反行為について、再三上司より注意警告を受けていたにも拘らず、無反省に反覆して服務規律違反の挙に出たのであるから、その情は極めて重いものである。

(三) (宮内に対する解雇事由)

(1) 宮内は、次のとおり、入社以来非能率者で、勤務成績、態度とも不良で、これは、労働協約第五八条第二号および第七号、第五九条第一号、工員就業規則第七三条第四号、第七二条第一号、第三号および第九号に該当する。

(イ) 宮内は、昭和三五年九月頃より、就業時間中、連日の如く無断離席をくり返し、翌三六年九月頃には公然と職場を離れて自転車、スケートの手入れ、衣類の洗濯、スポーツの練習などの私用に耽り、自席にあるときも業務を放棄して回覧板の作製、仕事に無関係な読書をすることなど、少くなかつた。

(ロ) 宮内は、職場では横型フライス盤を担当していたものであるが、作業時間中フライス盤を始動させなかつたり、又は空運転したりした。そのため、宮内担当の加工が常に遅れがちとなり、そこで他の機械を担当している者に宮内の応援をさせると、宮内は、それらの応援を拒否していた。

(ハ) 宮内は、殆んど連日、故意に自己の生産票に虚偽の数字を記入してこれを提出していた。そのため、宮内の所属する職場全体の集計に常に誤差を生じ、集計をやり直さなければならなかつた。また、業務改善、作業進捗調査などについての命令に、宮内は服さず、かえつて自己の同僚に対して、労働強化と称して作業指示に従わぬよう煽動していた。

(2) 宮内は、欠勤、遅刻、早退が異常に多く、昭和三六年四月から翌三七年三月までに、八五日欠勤し、他に有給休暇一六日をとつており、これは、全従業員中の最高である。遅刻、早退も、七四回延三四時間に及び、これもまた勤務不良の最たる部分に属している。これは、労働協約第五八条第四号、第五九条第一号、工員就業規則第七二条第一号、第三号に該当する。

(3) 宮内についても、以上の(1)および(2)の各事由について、綾部の場合と同様に、労働協約第六〇条により当然処分が加重されることとなる。しかして、宮内は、終始不誠実且つ反抗的で、上司の再三の注意も無視して服務規律違反を反覆していたのであつて、豪も反省の色がなく、その情において極めて重いものである。

3  両名に対する解雇は、次のとおり、不当労働行為ではない。

(一) 綾部が、組合代議員、組合執行委員として教育宣伝部を担当したことはあるが、昭和三三年四月当時の賃金闘争、一時金闘争の先頭に立つたことはなく、また、会社は、宮内の組合役員歴、綾部と宮内とが組合役員として新管理方式反対闘争を指導したということはいずれもしらず、従つて、闘争に対して報復的に両名を解雇することはありえない。

(二) 会社が新管理方式を採用した経緯は、会社がもと綜合経営方式のもとに、営業内容の比重は石炭の生産が最も大で、これに次ぐのが銅の生産であつたところ、石油資本におされての石炭産業の不振、貿易の自由化による銅の売行の低下などによつて経営の比重を勢い機械や化学部門に移さざるをえなくなり、漸次機械産業部門に力を入れはじめ、昭和三五年三月に新管理方式をうちだして合理化政策を採つたのである。一方、会社が、大峰炭坑に勤務していた者を採用したのは、昭和三五年四月以降同三七年四月まで九名であるが、これは、大峰炭坑が石炭産業の合理化に伴い、炭労と協議のうえ、整理に着手したからであつて、労務政策のエキスパートとして採用したのではない。さらに同心会については、それが共産主義に反対することを表明していることは明らかであるが、会社は、同心会が組合大会の席上、いわゆるビラ問題を綾部の仕業だといつたこと、機密漏洩の噂を流布したことなどは知らず、同心会の幹部が会社の御用分子だということはなく、さらに、同心会が会社と共謀して綾部と宮内とを解雇しようとしたことなどは全く存在しないのである。

4  以上のとおりの理由で、本件各解雇は、正当であり、かつ、昭和三七年八月一日高崎労働基準監督署長の予告手当除外認定を受けているものである。

5  両名は昭和三七年七月二〇日まで賃金の支給を受けていたものであるが、その支給月額は申請人らの主張する額とは異り、また両名にはいずれも仮処分の必要性が存しないものである。

第三、疏明<省略>

第四、当裁判所の判断

一、申請人両名が昭和三七年七月二〇日に被申請人から解雇されたことおよびその解雇の事由が、綾部については、(イ)会社の機密事項を故意に洩らしたこと、(ロ)診断書を悪用して虚偽の理由で欠勤したこと、(ハ)業務阻害、業務妨害を使嗾したこと、(二)勤務成績、態度が不良であること、宮内については、(イ)会社の機密事項を故意に洩らしたこと、(ロ)入社以来の非能率者で作業態度が下良であること、(ハ)遅刻、早退、欠勤が他の人に比べて異常に多いことであることについては、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこでまず、綾部に対する懲戒事由について、検討を加える。

1  機密漏洩の点について。

(一)疎乙第一および第二号証によれば、労働協約の第五七条には、「懲戒解雇の基準は左の通り定める。」とあり、その第三号には、「業務上重要な秘密を他に洩し、又は洩らそうとした者」とあるが、一方、工員就業規則第七三条第六号では、秘密漏洩の相手方を「社外」と規定している。しかして、右各懲戒規定の設けられた趣旨からも、両者は、概念を異にするものではなく、労働協約にいう「他」も、工員就業規則にいう「社外」もともどもに、「会社の外部」をいうものと解するのが相当である。

(二)そこで、秘密漏洩の事実の有無についてみてみると、疎乙第四号証、同第五号証の一、同第七ないし第一一号証、同第一八号証を綜合すれば、次の各事実を一応認めることができる。

(1) 工場長岡野譲は、昭和三五年七月に、高崎工場の同年下期から三カ年にわたる計画基本案を樹て、同年八月中旬に所店長会議で、この計画基本案について本社の承認をうけ、同月下旬ごろ、三上技術副課長に右三カ年計画を部数を五部と限定して複写させたうえ、これらを高崎工場の総務、業務、製造の各課長、技術副課長とにそれぞれ手交し、残りの一部を自ら保存した。その際、文書の取り扱いとしては、<秘>の印は押さなかつたが、それは文書の所持者が限定されているうえ、<秘>の印をおすとかえつて軽々しく取り扱われる虞れがあると、工場長の岡野が危惧したからである。

(2) 右当時、金井元日己は、山口菊雄から「技術課のリコピー機の横の机の上にあつたのを持つてきた。」といつて複写された三カ年計画を見せられ、これを借り受けて、その日ごろ、綾部にこれを見せたところ、同人からこれを貸してほしいといわれたので、同人に貸与し、約三日ほど経つたのちにこれが返却を受けた。同年九月ごろ、三カ年計画を更紙二枚に謄写版刷りしたものが、綾部の家で開かれた日本共産党西毛地区委員会古河細胞第一班の細胞会議で、出席者笹沢繁男、斎藤有功、木下恵子、町田忠夫、宮寺長造、谷田博司らに対して、また、そのころ、高橋まつ代方で開かれた前記細胞第四班の細胞会議で出席者野沢知子に対しそれぞれ配布されており、右第四班では右会議の前の細胞会議で申請人宮内、高橋まつ代、内田晴夫、戸丸仲子に対してもそれぞれ配布され、さらに、同細胞第二班に属していた金井一夫も、前記笹沢からそれを手交されている。しかして、この謄写版刷りの三カ年計画の文字は、宮内の書いたものである。

(3) 右三カ年計画は、工場経営の各部門にわたつており、その内容は具体的に数字を挙げているのであつてしかもさく岩機メーカーとして、会社は東洋工業と共に国内生産のそれぞれ約四〇パーセントを占めている現況にあるため、会社と東洋工業との競争は相当激しいものである。右認定に反する疎明は、採用しない。

(三) 以上の認定事実を綜合すると、申請人綾部が三カ年計画を入手してこれを申請人宮内に謄写印刷させ、日本共産党古河細胞の第一班、第二班、第四班の者などに配布したと認めることができ、このことは、申請人綾部が業務上の機密を洩らしたことに該ることは論をまつまでもないが、その機密の重要性と、漏洩の相手が社の内外いずれかは、少しく検討を要するので、それらの点をみてみると、先ず、機密の重要性については、前記認定のごとき激甚な競争の下にあつては、会社の三カ年計画、就中、生産機種、月産台数、金額など他社に知られることは営業上相当の支障が生じると考えるのが相当であつて、本件三カ年計画も、かかる観点から、重要な機密であるといえるのであり、次に、漏洩の相手方については、本件では、すべて日本共産党古河細胞員であつて、それらの者は同時に高崎工場に勤務するのであるから、或いは、社外には該らぬという疑いも存するが、しかし、それらの者の所属している日本共産党の党員の大部分は会社とは直接に無関係であり、日本共産党も会社とは直接には無関係な別個な団体であるから、結局、三カ年計画の配布先がたとえ日本共産党西毛地区委員会古河細胞の者に限られるとしても、それは「社外」に該るものというべきである。

(四) 労働協約第五七条第三号に該当する事実があれば、それによつて実際に会社が業務運営を阻害される必要は存しないのであつて、それは、同号が、「洩らそうとした者」を懲戒解雇の対象としている点からも、自明である。従つて、本件では、会社に右の如き業務運営上の阻害が生じた点につき、疎明が充分でないのでこれを認めることができないが、綾部の所為が労働協約第五七条第三号、工員就業規則第七三条第六号に該当することには何らの消長はない。

(五) しかして、右機密漏洩の事実が労働協約第五七条第一〇号に該当するか否か検討するに、それが会社に甚しく損害を与えたことは、全疎明をもつてしても認め難い。従つて、右機密漏洩の点は、労働協約第五七条第一〇号には該当しないものである。

2  虚偽理由による無断欠勤の点について。

疎甲第二四号証、疎乙第一二号証、第一三号証、第一四号証の一、二と申請人綾部の審尋(第一、二回)の結果とを彼此対比して考察すれば、綾部は、昭和三六年七月二五日から同年八月二日まで欠勤したが、その欠勤は大腸カタルに罹病したがためであることを一応認め得、それが虚偽理由であると認めることはできない。この認定に反する疎明は、採用しない。

3  会社業務阻害若くは妨害使嗾の点について。

(一) (業務課副課長内海孝夫に対する排斥)(イ)、疎乙第一四号証の一、同第一七、第二四号証を綜合すると、昭和三五年八月ごろ、工場業務課で職員を除く課員全員で業務課副課長内海孝夫に対して、お茶を出さぬこと、電話をとりつがぬこと、机をふかぬこと、内海副課長の出席する会議には出席しないことなどの排斥運動をしたが、その実質的中心は、綾部であつたこと、および綾部は、内海副課長の出席していた試作会議に、高見沢、日野原が出席するや、両名を呼び戻して謝罪を要求したことがあることを一応認め得る。しかして、この排斥運動は、組合運動の一環として行われたものとは、認めがたい。この認定に反する疎明は、採用しない。(ロ)右認定の綾部の所為は、労働協約第五七条第七号および第一〇号には該当しないものではあるが、それらに準ずる不都合行為であるというべきである。しかしながら同条第一六号に規定する「特に悪質」なばあいに該るかどうかは、検討を要するところであつて、同条が懲戒解雇基準を設定したものであり、その第一六号は、第一ないし第一五号に準じた不都合行為があつて、それだけで懲戒解雇に相当するばあいでなければならぬものと解されるのであるから、そうだとすると、本件における綾部の所為は、ここにいう「特に悪質」なばあいには該らないものというべきである。

(二) (滞貨処理妨害)疎乙第一四号証の一を以てすれば、新管理方式反対闘争によつて、高崎工場では昭和三五年八月ごろには相当の滞貨を生じていたことを一応認めることができるが、その滞貨処理を綾部が妨害していた事実は認めることができない。この認定に反する疎明は、採用しない。

(三) (さく岩機販売会社への転出者に対する妨害)疎甲第二五号証の一ないし三、第二六および第二七号証の各一、二と申請人綾部審尋(第二回)の結果とを併せ考えると、昭和三六年六月ごろ、さく岩機販売会社の設立に伴う同社に対する転出について、綾部は、当時仙台営業所の岡田、福島、矢内から電話で相談を受け、それに対し、販売会社の労働条件が良くないことを返答しており、また、そのころ、高崎工場の業務課では販売会社についての説明があるまでは同会社へ転出しない旨の申し合わせをしていたところ、関口初美が転出を希望したため、業務課において職場討議が行われ、関口が相当非難されたこと、疎乙第一四号証の一(この認定に反する部分は、採用しない)によれば、右岡田らが転出についての決意を一旦は飜えしていることをそれぞれ一応認めることができる。しかし、岡田らに対する妨害の点については、綾部が同人らに対して転出を拒否するように指示を与えた点までは認めることができず、そうだとすると、販売会社の条件のいかんについて意見を求められてこれに答えるのはむしろ常態であり、従つて、これを以て会社に対する業務の妨害といえぬことは勿論、販売会社に対する妨害にも該らない。次いで、関口初美に対する件については、なるほど前記疎明によれば綾部が右討議にあたり執行委員としてそのまとめ役にあたつたことが一応認められるが、しかし、販売会社の労働条件などについて納得があるまで同会社への転出に応じないことを申し合わせることは、労働運動としてもありうることであつて、従つて、右各認定事実から直ちにこれをもつて懲戒事由に該る会社に対する業務妨害だということはできない。

(四)(未納品リスト作成)疎乙第一四号証の一、二、第一五号証と申請人綾部の審尋(第二回)の結果とを彼此対比して考えれば、昭和三七年七月、綾部が口頭で住友化学菊本製造所よりさく岩機販売株式会社大阪営業所を通じ至急未納品リストと遅延明細書の送付依頼があつた旨高崎工場の業務課製品係主務鶴見貞雄に報告し、鶴見が計画係の二名と共に三、四日がかりで右リストなどを作成したのであるが、結局右作成送付については正式依頼の事実がなかつたので、右鶴見らの努力は徒労に帰したことを一応認めることができるが、しかしながら、綾部がかかる虚偽の報告を故意になして会社の業務運営を阻害せんとしたというがためには、それについて何らかの動機の存すべきであると考えられるが、この点について何ら納得できるだけの動機の存在を認めるに足る疎明がないので、従つて右認定事実から直ちに、綾部が故意にそれをしたということはできない。

右認定に反する疎明は、採用しない。

4  無断離席の点について。

疎乙第一四号証の一によれば、綾部の勤務態度は、執務時間中に業務外の読書、原稿書きをし、三〇分ほどに及ぶ無断離席が頻々とあつたような状態で、時にはそれが二、三時間にわたることもあり、行先がわからぬため、不在中に電話がかかつてきて支障を生じたことを一応認めることができ、右認定に反する疎明は、採用しない。

三、以上のとおり、綾部について、その懲戒事由は、機密漏洩の点と、無断離席の点について認められるのであるが、後者は、労働協約第五八条第七号に該当するけれども、それは懲戒解雇事由ではなく、すでに機密漏洩の点が労働協約第五七条第三号に該当している以上、労働協約第六〇条の適用はなく、従つて、それは懲戒解雇の相当性の判断の資料となるものであると解するのが相当である。

しかして、懲戒解雇について、被解雇者に懲戒解雇事由に該る事実が存しても、直ちにそれが適法といえるのではなく、その適法であるためには、それが社会通念上相当であること、即ち被解雇者の所為が社会通念上解雇されるも止むをえない程度に悪質かつ重大であることが必要であるというべきであつて、これは、本件においても、労働協約第六一条、工員就業規則第七三条但書の各規定の存することに鑑みても、明らかである。そこで、本件についても、綾部に対する懲戒解雇の相当性を検討すると、先ず、機密漏洩の点は、会社並びに工場の運営機能の中枢を侵すものであつて、たとえ、実害の発生は存しなくても会社に対する背信的な点で悪質かつ重大であり、これに加うるに、無断離席の事実があり、さらに懲戒事由には該らないが一部事実の認められる業務課副課長内海孝夫に対する排斥運動および未納品リストの件をこれに併せ考えれば、綾部に対する右事由による懲戒解雇は、やむをえないもので、相当であるというべきである。

四、そこで、すすんで、右懲戒解雇が不当労働行為にあたるか否か検討する。

1  懲戒解雇が、解雇事由に該当し、かつ相当性を具備しているばあいに、労働組合法第七条の適用があるか否かについては、争いのあるところであるが、そもそも不当労働行為は、解雇の決定的原因が正当な労働運動をしたことにあるばあいをいうのであつて、懲戒解雇事由に該ると否とを問わないと解されるから、結局懲戒解雇事由に該るばあいであつてもなお右同条の適用はありうるというべきである。

2  そこで、まず、綾部に対する懲戒解雇が労働組合法第七条第一号に該当するか否かを検討する。同号のうち、本件で問題となるのは、「労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇しその他の不利益な取扱いをする」ことであつて、これを本件についてみてみると、申請人綾部審尋(第二回)の結果によれば、綾部は、昭和二八年四月から青年婦人部委員、同三二年四月青年婦人部長、組合代議員兼任、同三五年九月組合執行委員、教育宣伝部担当などの組合役員歴を経て、翌三六年九月組合執行委員選挙に立候補して落選しているけれども、新管理方式反対斗争においてかなり活動したことを一応認めることができる。そうだとすると、綾部について労働組合の正当な行為をしたばあいに一応該るものというべきである。そこで、申請人綾部が懲戒解雇されたことは当事者間に争いがなく、しかも、それは懲戒解雇事由に該当し、その相当性を具備していることは前記認定のとおりであつて、一方、会社が申請人の正当な組合活動を決定的原因として同人を解雇した点については本件全疎明を以てするも認めがたい。従つて、申請人綾部に対する解雇が労働組合法第七条第一号に該当するということはできない。

3  次に、前同条第三号に、それが該当するか否かを検討すると、同号のうち、本件で問題となるのは、「労働組合の運営支配若くはこれに介入すること」であつて、疎甲第八、第一〇、第一一および第一六号証によれば、共産主義と対決し、健全な組合運動の推進母体となることなど目標にかかげて昭和三七年二月に同心会が工場組合員の有志で発足し、同心会は、星野泉に対する解雇問題のいわゆるアジビラの件をめぐつて、日本共産党西毛地区委員会と対立し、疎乙第二二号証の一、同号証の二の一ないし四によれば、同年七月一一日開催された臨時組合員大会で右党員である綾部らと激しく対立したことを一応認めることができるが、会社が右同心会を通じて組合を運営支配若くはこれに介入したことは、全疎明を検討しても、一応の認定をするに十分でなく、従つて、綾部に対する懲戒解雇は、前同条第三号にも該らないというべきである。

五、本件懲戒解雇が工員就業規則第七一条第四号但書の手続違背の点にふれるかどうかについてみると、なるほど、申請人綾部に対する解雇について同但書にいう行政官庁の認定を事前に得ていることは全疎明によるも認められないが、右行政官庁の認定に該るべき労働基準監督署長の予告手当除外認定を右解雇に近接した昭和三七年八月一日に得ていることは当事者間に争いがないのであるから、事後ではあるけれども、解雇後間もなく右認定をうけたことによつて追完され、右手続上の瑕疵は結局治癒されているというべく、従つて、申請人綾部に対する懲戒解雇を無効ならしめるものではない。

六、次に、宮内に対する懲戒事由について、検討を加える。

1  機密漏洩の点について。

前記認定(第四の二の1の(二)の(2))のとおり、謄写版刷りの三カ年計画の文字は、宮内の書いたものであるから、宮内は、綾部と共に業務上重要な機密を故意に社外に洩したといえるのであつて、これは、労働協約第五七条第三号に該る。

2  勤務成績、態度不良の点について。

(一) 疎乙第一九および第二〇号証によれば、宮内は、昭和三五、六年ごろを中心として、(イ)無断離席が多く、中曽根征一、秋葉力、中村肇、中村富夫、星野泉、斎藤有功らと屡々立ち話しなどしていたこと、(ロ)自分の担当していたライフルバー・ピストン等の削り機を屡々空運転させたことがあり、そのため、高柳俊造や中山明が応援に行くとそれに対し嫌味をいつたこと、(四)工場の入口に自分の自転車を持ち込んで手入れをし、スケートを「仕上げ」班の所に持つてゆき、これに油と石をかけたり、さらに工場の水道の所で靴下、手拭など洗濯したことなどを一応認めることができ、なお疎乙第一九号証と第二五号証の一の一および宮内の審尋(第一、二回)の結果とを綜合すれば、生産票の記入については毎日その生産個数を記入することなく数日経つた後にその数日分の生産個数合計を記入していたことなどを一応認めることができるが、なお右疎明によれば右生産票のそのような記入のしかたは宮内のほかにもしている者があることを認め得るしその合計の数字が虚偽であることの疎明はない。

右各認定に反する疎明は、採用しない。

(二) しかして、右各疎明と疎乙第二五号証の一の一と同号証の三とを併せ考えれば、昭和三五、六年ごろは、工場内の秩序が解雇当時より紊乱していたこと、宮内は、解雇前の二、三カ月は生産能率が標準を越しており、例えば昭和三七年五月の生産能率が平均プラス〇、二〇であることを一応認めることができる。

(三) 右各認定事実によつて認められる宮内の勤務成績、態度について、それが労働協約の何条に該当するかを按ずると、先ず第五八条第二号は、出勤停止についての規定であることから、職務上の指示は重要かつ具体的であることが必要だと解するのが相当であるが、本件ではその点と秩序を紊した点とが疎明では十分ではないので、これには該当せず、次いで同条第七号についても、職場離脱が相当重大なばあいに限定して解するのが相当であるところ、本件では、無断離席など直ちに重大なばあいとはいえず、従つて、これにも該らない。しかして第五九条第一号は、解雇当時にかかる状態にあることが必要であると解するのが相当であるところ、解雇約二、三カ月前すでに作業能率がプラスとなつているので、直ちに勤務成績不良とはいえず、従つてこれにも該当せず、結局、これは、懲戒事由には該当しないものというべきである。

3  欠勤・遅刻・早退の点について。

(一)疎乙第一九および第二〇号証と宮内の審尋(第一回)の結果とを対比して考えれば、宮内は、昭和三六年から翌三七年七月ころまでに約四〇日位欠勤しており、さらに、二、三分ないし五分程度の遅刻を時折していたものと一応認めることができるけれども、昭和三六年一一月ごろ中国にわたる予定でいたところ約一カ月遅れて出発し、そのため、休職の手続をとつてあつたものが喰い違いを生じて欠勤日数が増えたとも考えられる。右中国旅行の関係の欠勤日数を除いてなお欠勤日数が数十日に及ぶとの点は、疎明がないので認められない。右認定に反する疎明は、採用しない。

(二)欠勤・遅刻の多かつたことが労働協約第五八条第四号、第五九条第一号に該当するか否か按ずるに、前者については、宮内に欠勤日数が多く、かつたとえそれが中国旅行で欠勤した日数を除外してなお数十日あるばあいであつても、病気のため欠勤したのかもしれず、また遅刻はどの程度、例えば何回で延何時間という詳細の点について疎明がないのであるから、到底、右協約条項にいう「悪質と認められる」ということはできず、従つて、これに該らないものであり、同様の理由によつて、第五九条第一号にいう「職務怠慢」とは直ちにいえず、従つて、これにも該当しない。

4  以上のとおり、宮内について一応認められる懲戒の事由は、機密漏洩の点についてだけであるので、つづいて、懲戒解雇の相当性について検討すると、疎乙第七ないし第一〇号証、第一一号証、第一八号証を綜合してみると、先ず三カ年計画を入手したのは綾部であること、綾部が日本共産党西毛地区委員会古河細胞の責任者であり、謄写版刷りの三カ年計画の配布が綾部の自宅で行われていることなどに対し、宮内は謄写版で三カ年計画を複写したにすぎないこと、宮内の自宅では文書配布の会合をもつていないこと、右細胞の責任者ではないことなどの事実が一応認められるので、結局機密漏洩の点では綾部に対し従たる地位にあつたというべきで、この点と他の懲戒事由に直接該る事由がないこと、宮内の審尋(第一回)の結果認められる宮内が従前懲戒に付されたことのない点とを併せ考えれば、宮内に対する懲戒解雇は、相当でないというべきである。

第五、以上のとおり

一、申請人綾部については、懲戒解雇が相当であるから、それの無効を前提とする各申請は、いずれも理由がないので、これを却下するが、同宮内については、懲戒解雇が相当性を欠くので、宮内は引き続き被申請人高崎工場の従業員たるの地位を仮に認められるべく、同従業員としての取り扱いを求める申請は、正当であつて保証をたてしめないでこれを認容し、被申請人が昭和三七年七月二〇日申請人宮内威に対してなした懲戒解雇の意思表示の効力の停止を求める申請は、前記従業員としての取扱いを求める申請と内容が重複するので、後者を認容する以上、前者はそれを求める法律上の利益を喪失するというべきで、従つて、これを却下し、宮内は就労の意思があるのに被申請人によつてこれを拒否されているが右従業員たるの地位に基いて賃金請求権を有しており、後記のとおりその疎明するところによれば生活のため賃金の支払を受ける必要が認められるので、毎月一五日限り賃金相当額の支払いを求める申請については、後記賃金額の限度でこれを正当として保証を立てしめないで認容し、その余の部分についてはこれを却下する。

二、しかして、申請人宮内の疎明するところによれば生活のため賃金の支払を受ける必要性が認められるところ、宮内の平均賃金についてみてみると、その算出にあたつては、労働基準法第一二条の規定するところに従つてなされるのが相当と解すべきで、そうだとすると、本件では、その三カ月は、疎甲第二号証などによつて賃金締切日が一応一五日と認められるので、昭和三七年四月一六日から同年七月一五日までとなり、疎甲第三五号証によつて一応認められる四ないし七月分の賃金額について(但し、四月と七月分は、日数に按分比例して計算し、欠勤事由について何の疎明も存しないのでこれらも日数に算入し、かつ、一カ月を平均三〇日とした)算出すると、平均賃金は、一カ月金一二、九四六円となる。

三、申請費用については、民事訴訟法第九二条、第八九条を適用してこれを二分し、その一を申請人綾部の、その余を被申請人の各負担とする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 柏木賢吉 秋吉稔弘 萩原昌三郎)

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